野坂昭如氏のメッセージ

(7日にラジオ放送された野坂氏最後の手紙)


はや、師走である。


町は、クリスマスのイルミネーションに、


さぞ華やかに賑やかなことだろう。


ぼくは、そんな華やかさとは無縁。


風邪やら何やら、ややこしいのが流行っている。


ウイルスに冒されぬよう、


ひたすら閉じこもっている。


賑わうのは結構なこと。


そんな世間の様子とは裏腹に、


ぼくは、


日本がひとつの瀬戸際にさしかかっているような


気がしてならない。


明日は12月8日である。


昭和16年のこの日、


日本が真珠湾を攻撃した。


8日の朝、


米英と戦う宣戦布告の詔勅が出された。


戦争が始まった日である。


ハワイを攻撃することで、


当時、


日本の行き詰まりを打破せんとした結果、


戦争に突っ走った。


当面の安穏な生活が保障されるならばと


身を合わせているうちに、


近頃、かなり物騒な世の中となってきた。


戦後の日本は平和国家だというが、


たった1日で平和国家に生まれ変わったのだから、


同じく、たった1日で、


その平和とやらを守るという名目で、


軍事国家、つまり、


戦争をする事にだってなりかねない。


気付いた時、二者択一など言ってられない。


明日にでも、


たったひとつの選択しか許されない世の中に


なってしまうのではないか。


昭和16年の12月8日を知る人が、


ごくわずかになった今、


また、ヒョイと


あの時代に戻ってしまいそうな気がして


ならない。